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ある日、吉三のもとにカメラメーカーから部品の注文が来た。腕を見込まれての難しい部品の注文であった。吉三は細心の注意と大胆な手さばきで見事仕事をこなし、以後カメラの部品製造が自動車のそれと逆転することになる。
吉三の好奇心は底知れぬものがあった。未知のものへの衝動は激しく、カメラの部品を作りながらも、自分の中にある形が生まれつつあることを実感した。それは初めて胎動を経験した妊婦のようだった。吉三は想像力のなかでその形を変形させ、動かし、向きを変え、分解し、再構成し、構造のハーモニーを鳴り響かせた。そしてある日、それがオリジナルなカメラであることに気づいた。
三浜精工株式会社は、吉三がカメラを作るためにこしらえた会社であった。数人の職人とともに寝食を忘れて開発に没頭し、数年後誕生したカメラがミハマシックスだった。蛇腹式の無骨なデザイン、ワンタッチ式のレンズ収納メカニズム。当時、輸入カメラを含め多くの洗練されたカメラが発売されていたが、ミハマシックスは、長所短所をすべてあわせても、下町職人である吉三彼自身の投影図であった。 |